ハギ


ミヤギノハギ 東京都港区・9月撮影

万葉の秋の風情

萩の花は、秋の七草の筆頭に挙げられているから、やはり敬意を表することにしよう。

秋の七草については、『万葉集』に山上憶良が詠んだ有名な二首がある。

 秋の野に 咲きたる花を 指(および)折り
  かき数ふれば 七種(くさ)の花

 芽子(はぎ)の花 尾花 葛花 なでしこの花
  女郎花 また藤袴 朝貌の花

なにげなく秋の花の名を並べたなかに、万葉の昔から日本人が親しんできた秋の野の風情が浮かび上がってくるようだ。これらの七草のうち、朝貌とよばれている花だけは、現在のキキョウだとするのがほぼ定説になっている。

『万葉集』には、この萩の花を詠んだ歌が137首もある。草木では第1位を占めている。萩の花が、古来より日本人にいかに愛されてきたかがよくわかる。花見といえば、春は梅、秋は萩が代表だったという。そして、春と秋ではどちらがまさっているかの論争は、「物のあはれは秋ぞまされる」(和泉式部)がやはり優勢で、日本の伝統的情緒と美意識を形作ってきたようだ。

ふつうハギと呼ばれているのは、野山に最もよく自生しているヤマハギのことである。落葉低木で、高さは2mくらいになる。横にのびた小枝の葉の付け根から花の柄が伸び、紅紫色の可愛らしい蝶形花か10個ほどまとまって咲く。

今、萩の花見に出かけ、萩の花を愛でる日本人はどれほどいるのだろうか。萩の花が際立つて美しい花だとは思わないが、秋風に揺れるさまや、白く光る露を一面につけた姿には、やはり落ち着いた日本的な風情を感じる。いや、そう感じる自分に驚いたりもしている。
自然の写真を撮っている者にとって、伝統的美意識や表現手法といったものは意外に厄介である。
若いときにすでに決着をつけたつもりになっていたが、どうやら“伝統”とは二度対決しなければならないようだ。私もいよいよ自らの中の伝統に対面せざるを得ない歳になってきたのかも知れない。それはきっと対決ではなく、たぶん和解なのだろうが…。

(2000.9.20)

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