エゾリンドウ 蝦夷竜胆 】
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▲群馬県尾瀬ヶ原山ノ鼻・10月1日撮影

 

 山の秋に染み入る深紫色

リンドウの花は、秋の七草の選にはなぜかもれたが、古くから美術工芸品の飾り文様や衣服の絵柄などに広く描かれ、親しまれてきた。
青紫色の花が、枯れ色の野山に咲き出せば、それはひときわ目立ち、秋の風情をかもしだす。

『枕草子』にも、『源氏物語』にも、そんな深まりゆく秋野のリンドウの花がいとおしむように描き出されている。どこか愁いを秘めた花である。

リンドウにもいくつかの種類があるが、なかでも、山地から亜高山帯の湿ったところによく生えるエゾリンドウの花の青紫色は濃く、深い。
花の長さが4〜5cmほどと大きく、草の高さは80cmくらいにもなる。茎は真っすぐに立ち、花は日が射さなければ決して開かない。

草紅葉の輝く尾瀬ヶ原には多く、かけ足で過ぎ行く山の秋のなかで、その姿と花の深紫色は、魂に染み入るように落ち着きはらっている。 

花屋の店先を飾るリンドウの花は、このエゾリンドウの栽培品だという。しかし、花色の深みも愁いのほども、自然のものとは比べるべくもない。

 男泣きに泣かむとすれば龍胆がわが足もとに光りて居たり

(『桐の花』北原白秋)

官能的とまでいわれる耽美な詩や歌を欲しいままにした白秋が、「男泣きに泣かむ」と、めずらしく直情的な感情表現を用いている。白秋とはとても思えぬ写実的な歌である。
いうまでもなく、道ならぬ恋に破れ果て、女にひどい仕打ちを受けたのちの作である。それでも残る静かな深い恋情にはたと気づいた白秋の目に映ったものが、晩秋の野に咲くリンドウの花だったのだろう。

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