カンツバキ【 寒椿 】

▲東京都神代植物園・2月7日撮影

 

寒さの中で、真紅の八重咲き

カンツバキは、まだ寒さの厳しい12月から3月ころに花が咲く。花の少ない時期だけに、赤い八重咲きの花は人目を引く。木もそれほど 大きくならないので、庭や公園などに植えられている。関西ではシシガシラとも呼ぶ。ツバキとサザンカの雑種から生まれた園芸品種だと いう。

ツバキといえば、花の色や形が多種多様の園芸品種が思い浮かぶが、 日本のツバキの野生種は、ヤブツバキ(ヤマツバキともいう)とユキツバキの2種しかないそうだ。
どちらもふつう五弁一重の赤い花を咲かせるが、ヤブツバキは本州から沖縄までの海岸近くの地域によく生え、伊豆大島のツバキ林が有名。一方、ユキツバキはおもに日本海側の雪の多い地域に生え、花びらが平らに開く。

ユキツバキの写真が撮りたくて新潟へ出掛けたとき、その年は雪が多かったから海岸線の低地ばかり歩いていた。なんのことはない、ヤブ ツバキのほうが多く生えていて、なかなかお目当ての雪国の美人に出会えなかった。なかには、どちらの種とも見分けのつかないものまで いた。
後から聞けば、ヤブツバキとユキツバキの混在する地域では自然交配がさかんで、さまざまな間種や変異ができているのだそうだ。現在の多彩な園芸品種はそんな中から選び抜かれ、改良されてきたのだろう。

そういえば、TVの「葵徳川三代」が話題らしいが、二代将軍秀忠は ことのほかの椿好きで、収集も半端じゃなかったそうだ。あの狸親父ににらまれていたら、椿の花でもじっと見ていたくなる心境もわから ないではないが、少しはそんな場面も出てくるのだろうか。多分ないんだろうが、西田敏行なら、チョットおもしろそうな気もするんだが…。

                                  *

ちょうど5年前の1月17日、早朝の東京駅新幹線乗り場で、私は足止めをくらった。 ごった返す人で、あたりは異様なまでに騒然としていた。
明けやらぬころ、郊外から一番の電車で出てきた私は、まだ大地震のニュースを知らなかった。 関西出張だった。どうしても行かなければならない用件でもあった。名古屋まではなんとか動いているような放送があった。しかし、改札 口は黒山の人だかりで、中にはまったく入れない。ホームに人があふれているようだ。
公衆電話の前は長蛇の列、私はただ、ざわざわと、おろおろしているだけだった。新横浜から乗る同行者の自宅に、やっとの思いで電話が できた。しかし、本人から連絡は入っていないとのこと。
2時間近く、ただうろうろと待っただろうか。結局、私は、自分自身の興奮がさめたころ、あきらめた。

事務所に出て、さっそくラジオを聞いた。ただならぬ大地震、大災害 となっていることを知り、茫然とした。気を回して前日入りしていたら…と、ふと思ったとき、ゾッとした。しかし同時に、まだ悪運は尽 きていないようだと、細くほほえんだことを覚えている。

今、95年の日誌を開いてみたら、その夜は、執念で名古屋まで行き そのまま帰ってきた同行予定のK氏と酒を飲んでいる。そうだ、K氏が来社し、打ち合わせと称してそのまま飲んだのだ。でも、あの夜の 酒は、鉛のように腹にたまり、なかなか酔えなかった。

それから1か月後、私は、白いコブシの花に寄せて、次のように記している。

「山里には,何事もなかったかのように,また春がめぐりきている。 廃墟と化した街,一瞬にして奪われたあまりにも多くの尊い人命。ぬぐいされない深い悲しみと歎き,荷負わされた重く苦しい現実の生活。
 コブシよ,コブシ,清純な早春の白い花よ,おまえはそのことを 知っているのか。大自然はなんとむごいことをするのか…。いや,おまえを責めるのはやめよう。
 このいきどおりと非難の言葉は,大地の悠久の営みの前ではまったくの無力だから。むしろ,人間も自然の中の一員に過ぎないことを忘れた身勝手で傲慢な逆恨みであることを知らされるだけだから…。
 それでもやはり,なぜ,どうしてと,天に向かって悲痛に叫ばずに はいられない。だから,静かに,魂鎮めの白い花を手向ける。」

合掌

(2000.1.17記)

*

一覧へ

inserted by FC2 system