早春の髪かざり
早春の山道を歩いていくと、谷あいの林の縁などで、キブシの花をよく見かける。葉の出る前の枝先に、淡い黄色の小さな花が髪かざりのような細長い房状になって、何本も垂れ下がっている。平地ではあまり見かけない花なので、馴染みがないのかもしれないが、春先の山では、ちょっと気をつけて見ていると、いたるところで見かける。 やわらかな早春の陽ざしを受けて浮かび上がった花の姿に、しばし足を止め、ながめいってしまう。派手な花ではないのに、まだ木々が冬の眠りからさめきらない季節だけに、キブシの花はそこだけ際立って見える。春を待ち望んだ山あいの人々の思いに、いまキブシの小さな花は、ひとつひとつ花を開いて応えているようでもある。 こんなキブシの木も、葉が繁ってしまうと、何ということもない山の林の雑木になってしまう。そして秋には沈んだ赤色の実をつける。 この実が黒色染料やおはぐろを染めるときに用いた媒剤である五倍子(ふし)の代用品になることから、木五倍子とか黄五倍子と名が付けられたという。
(2001.2.21更新) |