タネツケバナ 【 種漬花 】


長野県穂高町・3月撮影

 

 

小さな十字形花

耕される前の早春の田んぼで、タネツケバナの花がよく咲いている。どこにでも見られるいわゆる水田の雑草だが、まだ冷たい風が吹くころから、小さな白い十字形の花をつける。よく見ればかわいらしい花である。このころなら草丈は10cmほどだが、春も盛りとなれば30cm近くまで伸び、みずみずしい緑色の葉をつける。
名前は“種漬花”と書く。この花が咲くころになると、稲の種籾の発芽を早めるために水に漬け始めたことから付いた名だという。そして、田は起こされ、水が張られ、また稲作農家の1年が始まるのだろう。

数年前、何を血迷ったか、全国農業会議所の新規就農者講習というのを、長野県の農業大学校で受けたことがあった。6泊7日で、朝早くからの実習と講義、夜は懇談会があり、結構ハードで本格的なものだった。本気で帰農を夢見ていた。
具体的な準備も整い、あとは移住するだけにまでこぎつけた。だが、夢は実現しなかった。最後のところでふんぎりがつかなかったような気がする。
それにしても、あのころの憑かれたような農業への思いは、いったい何だったのだろう。人生に悲観したわけでも、仕事に行きづまりを感じたわけでもなかった。その意味では、今のほうがはるかに行きづまっている。ときどき、ふらふらっとまったくちがう別なことに不明な情熱を燃やすクセがあるのかもしれない。でも、それはきっと余裕であり、余力なのだろう。
農への憧れはいまだ消えてはいないが、脱出のエネルギーがすでになくなっている。今年も、趣味の日曜野菜作りでお茶を濁すしかないだろう。

(2001.2.27更新)

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