ザゼンソウ【座禅草】
長野県白馬村・4月17日撮影
早春の湿地に咲く座禅坊主
この花ほど待たされた花はなかったような気がする。
今年こそはザゼンソウの花を見に行こう、そう思ってから十年近くがたってしまっていた。
恋いこがれているのに、なぜか年ごとに縁遠くなっていき、なかなか出会えない花がある。風変わりではあるけれど、特に珍しい花というわけではないのだから、その時期にその場所へ出かけて行きさえすれば会えるというのに、いろいろなことにかこつけて、なかなか行こうとしない。
初めての出会いを、いつまでもぐずぐずと、とっておいたような気がしないでもない。そんな私の気持ちを察してか、写真仲間がタイミングよく誘ってくれた。白馬山麓の小さな湿原は雪が解け、北国の遅い春が訪れはじめたころだった。周辺にはしゃれた別荘などが建ちはじめていたが、まだ春は早く、人ひとりいなかった。
静かな林の中の湿原で、シャッターの音だけが奇妙に大きく響いていたような気がする。
最初の出会いとは、何事につけてもそうなのだろうが、じつにたんたんと時を刻むだけである。そして、1枚の写真がいつまでも残る。ザゼンソウは、白い花のミズバショウとは、いうなれば兄と妹のように近しい間柄で、同じサトイモ科のなかまである。花のつくりは似ているが、その花の色からくる印象は、あまりにもちがう。
ミズバショウの純白の花は清々しく、ハイカーの憧れの的だが、かたやザゼンソウの花はくすんだ赤茶色で、姿形もずんぐりむっくりとしている。座禅を組む坊主か達磨大師のように見えるので、その名がついたという。いかにも、味わい深い花である。
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