カタクリ 【 片栗 】


長野県茅野市西山・ 4月13日撮影

 

春の雑木林で

野山の花好きにとっては、カタクリの花は、春のシンボルのひとつといってもよいだろう。雑木林の樹々が芽吹く前に、林床でおだやかな春のひざしを受けて、淡い赤紫色の六弁花を咲かせる。
日光を受けてあたたかくなると、花びらをうしろにそり返るほどに開き、そのあでやかで華麗な姿を惜しみなく見せてくれる。
関東周辺の平地の雑木林では、3月下旬ごろから花が咲き、東北の山地では5月上旬ごろになる。しかし、その花期はわずか1週間ほどで、花の命は短い。
そして林の樹々が繁る5、6月には、葉も枯れ、他の雑草の中に姿を消してしまう。
地中深くに残った球根(鱗茎)だけが静かに来春を待つ。この球根からとれるデンプンが、正真正銘の片栗粉であるが、本物は夢々望むなかれ……。でも、確か早春の金沢の旅館だったと思ったが、すまし汁にこの花が一輪入っていたのには、うなってしまった。

もののふの八十(やそ)おとめらが汲(く)みまがふ
 寺井の上の堅香子(かたかご)の花    (『万葉集』)

大伴家持が堅香子(カタクリの古名)を詠んだ、のどかな万葉の光景はすでに遠い。

(2001.4.9更新)

 

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