はにかむような薄紅色
名は、「姫小百合」と書く。花の色はうすくれない。姿は小柄で、面はふくよか。まだ緑も淡い初夏から夏に、山の草原や高山でユリとしてはいちはやく花を咲かせる。東北地方と新潟県にだけ分布し、東北の人はオトメユリと呼ぶ。いかにもそんな感じがする。 東北の高山では、ひとつふたつ咲いているのを見かけることはあるが、自生の群落は少ない。2年前、夢がかない、6月中旬に福島県南会津の南郷村の群生地を訪ねることができた。 お目当ての高清水自然公園はまだつぼみだったが、南郷スキー場の群落は咲きはじめで、それは美しく、見事なものだった。そぼ降る初夏の霧雨のなかで、薄紅色の野の乙女は、はにかむように微笑んでくれた。 もちろんここは自生地を保護してきたのだが、山の奥まったところに入りこむと農園があり、どことなく隠れるようにではあるが、実は大々的に栽培していた。まるでヒメサユリの畑だった。見ないほうがいいものを見てしまった感はなきにしもあらずだったが、まあきれいに列をなして咲いている乙女たちこそ、突然の闖入者に何とも恥ずかしげだった。
(2002.6.3更新) |