コマクサ【駒草】

08KOMAKUSA2.JPG - 55,510BYTES

 長野県北アルプス烏帽子小屋付近・8月10日撮影

高山の女王

コマクサは、よく高山植物の女王といわれる。
ピンク色の花はあでやかななかにも、凛とした気品がある。花の形は独特で、つぼみのうちは馬の顔に似ている。パセリのような葉もありきたりではない。しかも、高山のほとんどほかの植物を寄せつけない砂礫地にだけ、点々と株をつくって咲く。多くの花々が咲き乱れるお花畑にも、急峻な岩場にさえ、決して姿を見せない。だからほかの植物と混ざることがない。

稜線の砂礫地でこの花を見かけると、よくぞこのような場所で花を咲かせたものだと感心させられるが、それどころか、なにか痛いほどに深いこの花の宿命のようなものを感じる。荒涼とした高嶺の稜線で見せる孤高の姿は、まさに高山の女王の名にふさわしいのだろう。

この写真を撮ったときは、夏とは思えないほどの冷たい小雨混じりの強風が吹きつけていた。花はしなるほどに揺れていた。だからといって花を閉じるわけでもなく、ただ強風に身を任せることで、悠然と咲いていた。私は砂礫にひれ伏すようにして、風のやむ一瞬を待った。待っただけのかいはあったように思えるが…。しかし、私の歩みはひとり遅れ、追いつくのに一苦労した。

その日は烏帽子小屋から野口五郎岳を越え、水晶岳をピストンし、なんと雲の平まで行くというおそろしい強行軍だった。雲の平にヨレヨレになって着き、大慌てでテントを張り終わったとき、まるで示し合わせたように日がとっぷりと暮れた。
テントをかつぐほどに成長した二人の息子殿に感謝の山の1日だった。昨年の夏山での思い出。

(2000.8.13)

一覧へ

inserted by FC2 system