シシウド【猪独活】

長野県岡谷市鉢伏山・8月1日撮影

 

霧の中に幻想の花々

シシウドは山の草原や高原に生え、とにかくでっかくなる。木でもないのに、春からのわずか数ヶ月の間に、草丈が2mほどにも育つ。
花は8月ごろから咲き、直径20〜30cmほどの大きな傘形に広がる。その花茎の先に、まるで打ち上げ花火のように白い小さな花を無数につける。

夏の山や高原では、雨と霧はつきものだが、深い霧に閉じこめられると、自分の伸ばした手の先さえじゅうぶんに見えないことがある。乳白色のベールで目を覆われたようで、暗闇とはまたちょっとちがう不安に襲われる。いくら目を見開いても、そこに何かが見えないというのは、実に奇妙な感覚で、けっこう恐い。

高原では、天気が悪くなれば、人はさっさとひき、静寂が立ち戻る。かすかに霧が流れ始めたかと思うと、突如眼前にこの大きなシシウドの花がぬっくと立ち現れたりすれば、思わずギョッとさせられる。
あたり一面にノアザミの赤い花が咲き乱れ、霧は幻想的な雰囲気をかもし出してくれる。まさに山上の花の楽園である。楽園では、在るものが見えるものと隠されるものに明瞭に峻別さえている。
楽園を望むのなら、在るものすべてが見える必要などないことを教えてくれる。ましてや、在ることのすべてを知ろうとしたことなど、いかに愚かな行為であったかに気づかせられる。知らないほうがよいことは、確かにある。

(2000.8.17)

 

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