ツルボ 【蔓穂 】


東京都小平市 ・9月8日撮影

草むらに上品な花の穂

初秋の野原や畑のふちなどで、それはきれいな淡いピンク色の花を見かけることがある。丈の低い草むらの中から、真っすぐに立った花の穂が何本か頭を出していたりする。野草とは思えないほどの上品なふんいきがある。
初めてこの花を見たとき、園芸植物がどこかから逃げ出してきて咲いているのだろうと思った。でも、名前がなかなかわからなかった。そうなると変に気になるもので、結局、野草図鑑をただひたすらめくっていたら、なんと、そっくり、ぴったりの花が載っているではないか。ツルボという花だった。
花の名前がわかった喜びはもちろんあったが、てっきり園芸種だとばかり思い込んで疑わなかった自分が、なんともおかしく、情けなく、恥ずかしいような感じにとらわれた。別に人前で恥をかいたとか、失敗したというわけでもないのだし、まったくの自分の心の中だけのささやかな出来事に過ぎなかった。だから、そのこと自体はどうということもない。それなのに、秋になってこの花を見かけると、なぜか今でも、自分で自分を気まずく思うような、自分に対する奇妙な違和感がよみがえってくることがある。
この歳になると、具体的な出来事の細部や経緯というものは、実によく忘れてしまうものだが、そのとき感じた感覚というものは、なにかのきっかけで、まざまざとよみがえるもののようだ。
1つの花は、直径7ミリほどと小さいが、ユリ科のきまりどおりにきちんと6枚の花びらと6本の雄しべがある。別名をスルボとか、サンダイガサという。

(2001.9.10更新)

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