ハバヤマボクチ【葉場山火口】

 長野県岡谷市鉢伏山・9月28日撮影

 

庶民の火の歴史を物語る

ハバヤマボクチは、日当たりのよい山の草原や高原に生え、高さは1m以上にもなる。立ち上がった茎の先に、黒紫色のいが栗のような花を付ける。花の直径は4〜5cmにもなるから、秋の草原では、けっこう目につく。でも、花の色があまりにも地味で、ずいぶん損をしているように思える。ところが、虫たちはこの花のことをよく知っている。季節の最後を飾る花であることを…。だから、ハチもチョウもよく来る。

この写真を撮ったときは、午後も3時をまわっていた。1900mを超す高原状の鉢伏山では、じっとしていると寒いくらいだった。でも、ハチはこの花でひたすら吸密している。近づいても、もはや逃げようともしない。敵から逃れることなど、すでに放棄しているかのようだ。
あと数日もたてば、山の秋は終わり、ハチの命も終わるのだろう。なのに、なにゆえ最期のぎりぎりまで、餌を摂ろうとするのだろうか。そこに何かの意味が隠されているのだろうか…。

名の葉場山(はばやま)とは、草刈り場のある山の意味で、そのようなカヤ場によく生えるからなのだろう。また、火口(ほくち)とは、火打ち石で出した火を移しとる草などの綿毛のことである。
ハバヤマボクチの葉の裏には白い綿毛が密生していて、これを乾かしたものが火口として利用されてきたという。朝に夕に火をおこすことは、まさに人々の日々くり返される食べる営みである。庶民の朝晩の火の歴史が、植物名にも残っている。

(2000.10.20)

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