紅葉

 青森県八甲田山上毛無岱・10月8日撮影

 

八甲田山と酸ヶ湯温泉

タダというのは、癖になるようだ。いや、味を占めたと言うべきなのだろう。

今夏の東北登山に引き続き、またまた、テント泊の放浪登山旅行をしてしまった。先週の連休に青森県まで出掛けて、紅葉の八甲田山、岩木山に登ったのだ。2泊3日で宿泊費はホントにタダ。1円も使わなかった。自慢にはならないって、ただの貧乏っていうだけなのだから…。

7日の土曜日、昼の12時半に息子Sを学校の正門で拾う。スーパーで買ってきた寿司やパンや唐揚げや、まあとにかく多過ぎるお総菜を、怒濤のごとく詰め込む。そのまま大泉ICから外環自動車道に乗って東北道へ。
東京から青森は、とにかく長いの一言。半端じゃない。走っても走っても着かない。(当たり前です。650km。)途中1回の休憩ともう1回の天ぷらうどんをはさんだが、青森の黒石ICを下りたのは、ああ、夜の9時過ぎ。運転は遂にみちのく一人旅でした。

あまりにも遅くなってしまったので、酸ヶ湯温泉に電話してみると、なんと、駐車場もキャンプ場も満杯、宿も400人宿泊で満員ですよ、とのこと。うぎゃあー!「何たるちや、サンタルチア!」である。
青森市寄りに下った萱野高原とかいうキャンプ場を教えてもらったが、真っ暗闇の山道でとにかくよくわからん。田舎の「ちょっと先」は、やたらと遠い。「北へ下る」なんて言ったって、どちらが北やら南やら…。結局、後ろから息子が起きだして、ナビゲートしてくれる。(カーナビなんかありません)
やっとの思いでキャンプ場らしい所に着くが、テントなんか1張りも張ってないゾ。真っ暗闇で気味が悪いくらい。そこでさらに駐車場まで下ると、物騒な車の群れ、怪しげな人影。暴走族というかローリング族(?)というのか、若者たちがたむろってる。だが、テントも2張りあるし、キャンピングカーも止まっているから、まあ大丈夫だろう。まさか青森まで来て“親父狩り”はないだろう。茸狩りはあっても…。今夜はもうここで泊まり!と、駐車場にさっさとテント張ってビール飲み始めたら…、ああ、始まっちゃったよ。最悪のケース。スゲー爆音、タイヤの軋む音、ローリングが…。さすが駐車場の中までは入ってこなかったが、ローリングの折り返し地点だったのです。コノヤロー、真夜中過ぎまで続けやがって。

翌8日は、眠い目をこすりながら酸ヶ湯登山口から八甲田山に登る。穏やかに晴れ、最高峰の大岳に登頂。下山は紅葉の見事な高原状湿原の「毛無岱(けなしたい)」(写真)を廻った。
息子が毛無岱の地名を知るや、クスクス、やがてヤンヤヤンヤと「毛無し帯」を連発してくるので、「君は、お父さんをけなしたいのか?」とやり返したが、効き目は無し。みちのくの山の秋風は、髪に涼やかだったと書いておこう。

酸ヶ湯に下山後は、さっそく温泉へ。もちろん有名な千人風呂に初めて入る。1人500円。乳白色で硫黄臭のある酸味の強い温泉。建物も浴槽も古いがレトロで、いかにもみちのくの旅情があふれている。
ところが、ここで信じられない出来事が起こった。大珍事が勃発したのだ。
少なくとも文明国、いやしくも法治国家、おそれ多くもかしこくも万世一系(?)の日本国において、白昼堂々、公然と、しかも国民宿舎系の温泉で、ありうべからざる光景を目の当たりにしてしまったのであります。
私は思わず我が目を疑った。とにかく、ドキリンコとオッタマゲタのだ。
聡明な読者諸兄(姉)はすでに充分にお察しのことでしょうが、そう、湯煙りの中に妖しく現れたのは、まぎれもなく女体、女体、女体…なのでした。(本当のところは、湯煙りなんぞほとんどなく、もうバッチリ見え見えでしたのです。) まさかの、混浴でありました。
現実は、何故かくも唐突に、我に過酷な試練を与えるのか…。
しわしわに垂れ下がった水風船や、洗濯板や、干しブドウばかりでは必ずしもないのであります。ざっと見て十数人が惜しげもなく伸びやかに、おもいおもいに裸身をさらしているのです。
ああ、私はといえば、不覚にもまったくそれと気づかずに、ぶらぶらさせながら浴槽を移ったりしていたのでありました。
前途あるわが息子が、父親譲りのとんだ粗相を万が一いたしては末代までの恥と、目で教えてやると、わが息子殿、そしらぬフリして平然としておりました。珍事は勃発してない模様でありました。
私は、ともかく気を落ち着かせようと、女性ゾーンから最も離れた打たせ湯に行きました。車の運転や登山で疲れた肩や腰を高くから流れ落ちる湯でなぶらせていると、それはなんともよい気持ちでした。
でも、湯のしぶきが口に入ればレモンより酸っぱく、目にしみこめば痛くてたまらない。打たせ湯から抜け出して目をしょぼしょぼさせていたとき、なんと! 再びドキリンコ! 目の前に見慣れぬ物体が…、形ばかりに前をおおったタオルの横から、ふたつのふくらみとひとつの黒いものを、私ははっきりと、しっかりと見てしまったのです。
もちろん私自身もまざまざと見られたであろうことはまちがいありません。ああ、無情。ああ、ラッキー。どっちなんだ。

東北の女性はイイ度胸してます。というか、おおらかです。あけすけです。一人だけバスタオルをガチガチに巻いた女性がそのまま湯に浸かっていましたが、その姿はなんとも不自然で、なんだかいやらしい感じさえしました。
男どもは(私も)といえば、浴槽の中で異様なほどにじっとして、時々はるかをなにげに盗み見ているのですから、なんともかわいらしく哀れなほどでした。
それにしても、まだまだ東北には混浴が、いや日本の古き良き習慣が現前と残っているのですね。
東北万歳! 日本の将来は安泰である。(?)

もう、これ以上書いても蛇足になりましょうが…、その日は岩木山の麓まで車で移動。百沢温泉・桜林公園内に、またまた真っ暗の中、テントを張る。もちろんタダ。翌9日は岩木山に登山。嶽温泉入浴。夜の12時に東京の家に到着。走行距離なんと1600km。ド疲れさんでした。

(2000.10.14)

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