ガマの穂 【 蒲 】


山梨県南巨摩郡 ・11月撮影

因幡の白うさぎを助ける

悪いワニ鮫にだまされ、皮をはがれて丸裸にされた因幡の白うさぎは、大国主命から、清水で体を洗い、ガマの白い穂綿をつけて寝ているように教えられる。うさぎがそのとおりにしていると、やがて傷は治り、白い毛の生えたもとどおりの体にもどったという。『古事記』や『出雲風土記』にある因幡の白うさぎのお話である。
子供のころ、家にこの絵本があり、よく見た記憶がある。しかし、子供ながらに、このお話はどうしてもおかしいと思っていた。うさぎだってそんな簡単にだまされるわけがないし、あんなにきれいに皮をむかれたら、とっくに死んでるよ、と。丸裸にされたうさぎが泣きながら大国主命と話している姿も、いくら絵本とはいえ、ヘンに現実離れしていて、かえってそんなことありっこないよと思えた。ずいぶん小生意気なガキだったのかも知れない。おまけに、きれいに裸にされたうさぎの姿には、妙に気恥ずかしくなるような女のにおいが漂っていた。少年ははやくも嗅ぎつけていたのである。それにしても、その絵本にはワニ、すなわちクロコダイルかアリゲーターが描かれていたから、因幡の白うさぎのお話の悪者は、てっきりワニだとばかりずっと思っていた。こういった自由というかデタラメなアレンジが当時のはやりだったのかも知れないが、考えてみれば古代とはいえ、神話とはいえ、日本にワニがいるわけがないよな。ワニ鮫とはサメやフカの古い言い方なのである。
さて、植物のほうのガマだが、日本全土の池や沼などの湿地に見られ、草の高さは2mくらいになる。穂状の花は夏に咲き、先のほうにできる雄花の集まりから出る黄色い花粉は、蒲黄(ホオウ)と呼ばれ、止血剤となるそうだから、因幡の白うさぎに黄色い粉をぬったのなら、なるほど、さすが大国主命とわかる。でも、白い綿毛は、雌花の集まりが茶色のソーセージのようになった果穂から、秋が深まったころに出て風に飛ばされる。白い綿毛に薬効成分があるようには思えない。皮をむかれたうさぎが、この白い綿毛にくるまったら、ちくちくと痛いだけではなかっただろうか。
写真は、ガマより少し小ぶりのコガマという種類で、ソーセージの長さは10cmくらい。

(2001.11.17更新)

一覧へ

inserted by FC2 system