ジョロウグモ 【 女郎蜘蛛 】


東京都東久留米市 ・10月14日撮影

蜘蛛は天才である

秋は野山を歩いていると、クモの巣がずいぶん目につく。林の中を歩いているとき、知らずに顔などにからみついたりすれば、気持ち悪くて、手足をフル稼働して払いのけずにいられない。実は、クモは大の苦手である。カニもヘビもゲジゲジだってゼンゼンOKなのに、クモだけはダメなのである。
子供のころ、夜、天井にイエグモが出てくると、恐くていつまでも眠れなかった。アシダカグモというやつだろうが、大きいのは
2010cmくらいもある。天井の隅にじっとしていて、ときどきするすると音もなく移動する。いよいよガマンできなくなると、母親に追いぱらってくれと頼むのだが、それが長い箒などで追い払うだけだから、下手に布団の上などに落っこちてきたら、もう気持ち悪くてますます眠れなくなってしまう。イエグモは益虫だから、無闇に殺したりはしなかったのだろう。そして、なんと言ったっけ、子供だけが見る、あの閉じた瞼の裏の真っ暗の中に見えるごちゃごちゃしたヘンな模様がいつまでも現れ、それに吸い込まれていってしまうのである。私がご幼少のころ、アシダカグモは、ちょうど東海地方を一軒ずつ移動し、分布を広げていたのかも知れない。
おっと、ジョロウグモの話だった。まあ、クモは苦手でも、クモの巣に朝露が小さな水玉となってついていたり、逆光の夕日に輝くときなど、その幾何学模様はやはり美しい。
尻から出る糸をたくみにくくり、設計図もなしに空中に規則正しい網の目の巣を張るのだから、まさに、“天才”である。
写真のジョロウグモのメスは、産卵を前にして、黄色い縞模様の腹をはちきれんばかりにふくらませている。脇腹からはその特徴である血のような赤い模様ををのぞかせている。いかにも名前通りのメスグモである。
一方、“女郎蜘蛛”の
オス(←苦手な人は見ないように、と言うと見たくなるよね)は、体の大ささはメスよりはるかに小さく、目立った色や模様もなく、かわいそうなくらいに控えめで、貧相な、“しけた野郎”なのである。なんだか身につまされるなあ。
ところで、クモだけはどうして自分の網にからまないで歩けるのだろうか。それは足の先から出ているあぶらのおかげなのだという。試しにベンジンなどで足のあぶらをふきとってしまうと、さすがの天才のクモも、自分の巣にからみついてしまうそうだ。

(2001.11.2更新)

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