ムラサキシキブ 【 紫式部 】


長野県北安曇郡池田町 ・11月1日撮影

深い晩秋の紫色

「紫式部を贈ると想いがかなうんですって…」
ふと耳に入ってきた傍らの会話の意味は、 どうもよく分からなかった。まだ二十代のころのことだった。花や木の名前などほとんど知らなかった。秋に紫色の美しい実をつけるムラサキシキブの木も知らなかったし、ましてや見たことなどなかった。山の帰り際に、紫色の小さな実をいっぱいつけた木の一枝をもらった。そのとき、先ほどの会話の意味がすべてわかった。でも、はっきり言って少女趣味で、持ち帰るのもじゃまくさかった。かといって捨てるわけにもいかず、袋に入れて持って帰った。
ムラサキシキブは、山や平野の林にふつうに生えている落葉低木で、その名は『源氏物語』の作者で、平安の才媛、紫式部にあやかってつけられたのだろう。
窓辺に飾られた枝の葉は散っても、実はいつまでも残り、紫色はむしろ深みを増していく。そして、いつともなく晩秋の想いを惑わせるのだった。

(2001.11.6更新)

 

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