ナナカマドの実 【七竈 】
▲長野県栂池高原・10月10日撮影

 

七度かまどに入れても燃え残る

初冬の山は訪れる人も少なく、寂しいくらいに静かだ。木々は身にまとっていた葉をきれいさっぱりと落とし、なんともさばさばした姿を見せる。
凛とした静けさの中で、赤いナナカマドの実だけが彩りをそえる。赤い実は過ぎゆく季節を惜しみ、一年の営みをいつくしむかのようにただそこにある。

雪のくる直前の山では、午後もおそくなると,冷気が刻々と降りてくる。独りぽつねんと歩いていると、いま何をしているのか、どこへ行こうとしているのか、そんなことすら頭から消えていることがある。
放心とも夢中とも少しちがう。もっと穏やかな融和感の中に溶けこんでいくような感じ。私は風景の中の点景と化しているのだろう。

そんなときは、ただ歩き、ただ目に入ってくるものを見るともなしに見ている。見ているというより、見えているとでもいったらよいのだろうか。そして、見えていることに甘んじ、満ち足りている。
もしかしたら、カメラも見えているように見ているだけなのかも知れない。写すということは、そういうことなのだろうか。

ナナカマドの木は硬く,七度かまどに入れてもまだ燃え残るということからその名がついたという。七回とはいささか誇張が過ぎるだろう。
でも、寒冷な山や北国に育ち,その細い幹にもかかわらず、高さが10mほどにもなるこの木に、人々はそれぞれの堅固な思いを重ね合わせたのかも知れない。

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