◎四国八十八ヶ所遍路 (讃岐の国から阿波の国へ)

77 道隆〜第7番 十楽寺まで (2018年4月10日〜19日・9泊10日)

78郷照寺【 本堂 】



香川県綾歌郡宇多津町 2018年4月11日・撮影

またまた四国遍路に行った。今回は、香川県讃岐の77番札所・道隆寺から、徳島県阿波の7番札所・十楽寺まで巡拝した。88番の大窪寺までお参りしたが、愛媛県の40番・観自在寺から歩き始めたので、まだ結願とはいえない。

日程は910日。1日目はLCC(格安航空)の超格安チケット(片道1980円)なので、夜便ということで成田から高松入りまで。
夜の高松空港から市内行リムジンバスで、JR高松駅に近い琴平電鉄の瓦町駅まで行き、歓楽街にあるカプセルホテル泊。ここにはお遍路割引があり、お遍路さんは納経帳を見せれば1500円で泊まれる。

節約できた分で、さっそく宿で教えてもらった高松名物「骨付き鳥」を食べに行く。明日からの歩き遍路の鋭気を養うためだ。

骨付き鳥とは、まあ焼き鳥というか、ローストチキンのことなのだろうが、その中でも、もも肉を切り開いてニンニクやショウガなどの味付けで骨付きのままステーキ風に鉄板で焼いたものが有名で、ハサミで切って食べる。こってりしていてスパイシーでボリュームもあり、うまい。ビールも進む。初日からこれだから、まあ、先が思いやられるが、腹一杯になり、いいご機嫌になってぐっすり眠れた、ということにしておこう。

翌朝は真面目に朝早くに出発。JR高松駅まで20分ほど歩き、予讃線の普通電車で12駅目の多度津(たどつ)駅まで行く。77番道隆寺は前回お参りしているので、省いて次の78番郷照寺から始めてもいいのだが、それをすると77番から78番までの間を歩かないことになってしまう。後で悔やむことになるから、今回は空白区間を作らないように、ちゃんと歩くことにした。多度津駅から歩くと、遍路道は道隆寺の真ん前を通るので、いくら何でも素通りもできず、お参りして今回の歩き遍路は始まった。

路傍にはアリアケスミレだろうか白いスミレが咲き、八重桜が満開だった。讃岐路にも暖かくて穏やかな春が訪れていた。




アリアケスミレ【 有明菫 】



香川県仲多度津郡多度津町 77番道隆寺近く 2018年4月11日・撮影



丸亀城【 まるがめじょう 】



香川県丸亀市 77番〜78番郷照寺へ 2018年4月11日・撮影




丸亀市内を通過し、78番札所郷照寺、坂出市内を通過し、79番高照院天皇寺、そして80番国分寺を巡拝。その日の宿として予約しておいた国分駅前のえびすや旅館に到着。平地の約20km弱を歩き、1日目は順調なスタートを切った。宿を事前に予約してあると本当に気が楽である。

旅館では、にわか遍路友達の爺さまたちが盛り上がっていった。オイラも仲間に入って少し話などしたが、こちらはまだ初日でテンションが上がらない。

2日目は、山道になる81番白峯(しろみね)寺、82番根香(ねごろ)寺が待ちかまえている。予定というか願望では83番の一宮(いちのみや)寺までだが、水平距離で25km、歩行時間で9時間とある。朝、出発のとき、旅館の女将さんが丁寧に、いや不安そうにいつまでも見送ってくれていた。

案の定白峯寺への登りは予想外に時間がかかった。山道に入ると右手に凝灰角礫岩(ギョウカイカクレキガン)の白い崖が見える。凝灰岩は火山灰が堆積してできた岩石だから、この近くで火山の噴火があったことを物語っている。約1000万年前だそうだ。この地層には赤い宝石のガーネットが含まれているという。探す時間的な余裕はなかった。にわか山師なんて無理である。




凝灰角礫岩の崖ギョウカイカクレキガン



香川県高松市国分寺町 2018年4月12日・撮影


その後、修行大師のお堂がある石鎚休憩所(展望所)に着く。地元のご夫婦らしき人が登ってきて静かに掃除をしていた。この休憩所は泊まれそうだ。だが山の中でちょっと寂しい感じ。

山道や時々車道を横切るように歩き、10時には白峯寺に着いた。
まず手水(ちょうず)で手を清め、本堂と大師堂でそれぞれ灯明、線香を3本供え、お賽銭(5円〜500)をあげて、読経。そのあとオイラの場合は個人的な願い事をいくつも延々と心の中で唱えながら拝むのである。まあこれが長いのだ。そして納経所で納経帳に墨書して朱印を押してもらい、ご本尊の御影(おみえ)を頂く。これらで300円。

参拝は終わり、来た道をしばらくは戻るようにして次の根香寺へ向かった。晴れた暖かい春の山は快適だ。

しばらく下りてきたとき、ふと、アレッ? なんか変な感じ?! アレ〜ッ!!! ない〜!!! 杖がねぇ〜!!! ストックを持ってねぇ!!! 金剛杖ではないが、登山用のLEKIレキの愛用のストックである。

遍路ではお杖はお大師様の分身なのである。今回は「同行二人」の自作のステッカーを貼って遍路仕様に変えてきた。

アアッ! やってしまったよ。忘れてきたのだ。どこだろう? ハタと考えたが思い出せない。さっき写真を撮った「下乗石」の石碑のところか? いや白峯寺だろう。かれこれもう15分ほどは下ってきている。さあどうする? 探しに、戻るか? 当然だろ! 

オイラはすぐ踵を返して足早に歩き始めた。緩やかな道なのに、胸がドキドキし始めた。ヤバイ! 落ち着け。急ぐな。自分に言い聞かせた。「急がず、慌てず、焦らずに、心静かに行こう」 いつものオイラの合い言葉が出た。

下乗石のところにはなかった。あちこちキョロキョロ見ながら白峯寺まで戻った。門前にもない。白峯寺の境内は結構広く、百段石段もある。最初の建物の護摩堂が納経所を兼ねていて、そこで最後に納経したのだ。入り口まで来たとき、杖立を見た。黒いストックが1人寂しそうに立っていた。

「おい、薄情じゃねえか、置いてくなんて。このまんまお別れかと思ったぜ。コールマンのサングラスのようにな…」と、杖が言ったような気がした。私は心の中で、「お大師様、すみませんでした」と、謝った。でも、あって本当によかった。ホッとした。

最近は、物には執着しないようにしている。よく無くすから。でも、無くしたり、壊れたりすると、その物とは、結局そこで永遠のお別れになってしまうということが解るような歳にもなってきた。だから、愛着のある大切な物は無くさないようにしよう、大事にしようと思い、また元に戻って、物に執着するようになってしまう。

私は愛用のストックの感触を確かめるように、足早に次の82番根香寺を目指した。

白峯寺から根香寺までの遍路道を根香寺道といい、江戸時代前期の遍路道のすがたを残しているのだという。石の道標や1(109m)ごとに設けられた丁石(ちょうせき)がかなり残されている。山道は続き、古田というところで来た道と分かれ、十九丁という御堂のあるところを過ぎ、しばらく歩くとやっと車道に出た。この間、遍路道はかなりわかりにくかった。足尾大明神で一休みしたとき午後1時半を過ぎていた。腹も減ってきた。すぐ先の「みち草」という食堂でうどんを食べた。おいしかった。物静かで優しい笑顔のおばあさんがやっていた。今日の行程で食べ物を売っているところはここだけである。

  アケビ木通 通草



香川県高松市中山町 2018年4月12日・撮影

道路脇につるが垂れ、花がたくさん咲いていた。秋は実がいっぱいで大変だ。
 

そろそろ今夜の宿の手配をしなければいけないなあ。今夜からはもう予約してないのである。ちょっと遅くなりそうだが、一宮の天然温泉に電話した。かなり大きな施設のはずだが、なんと満室だった。「えっ? どうして?」と聞くと、最初は口ごもっていたけど、「実習生が来てまして…」とのこと。意味がはっきりとは理解できなかったが、要するに団体のようだった。それなら、かえってよかった、手前のJR鬼無(きなし)駅前の遍路旅館にしようと決めた。

82番根香寺に着いたのは午後時半を過ぎていた。モミジの新緑がきれいだった。お参りをした後、鬼無駅前の旅館に電話を入れたが、出ない。しばらく時間をおいてからまたかけ直した。かなり長く呼んだが、やはり出ない。おかしい。休みか? やめたのか? なんかいやな予感がした
根香寺からは、来た道を少し引き返してから、鬼無駅に向かって山を下りていく。だが、この道はかなり分かりにくい。車道と山道のショートカットが入り乱れ、いつの間にやら山仕事の道のようなところを下り始めているような感じだった。山道の踏み跡はあるが、地図上の遍路道とはチョット違う道のような気もした。県立高松西高と大きな池の神高池を目印にどんどん下っていった。





破れ菅笠すげがさ



香川県高松市中山町 2018年4月12日・撮影


遍路道には、こんな光景も…



池のほとりで休み、また旅館に電話した。出た。やっと出た。だか、旅館ではなく、「ふつうの家ですよ!」と言われてしまった。私は電話番号を確かめるでもなく、「すみませんでした」と言って電話を切った。そうか、もう旅館はなくなっていたんだ…と思った、いや思い込んだ。ここが運命の分かれ道だった。
ああ、いやな予感が当たっちゃったよ。まいったなあ〜、はやくも2日目にして宿無し状態だ。まあ、とにかく鬼無駅まで歩こう。すぐ近くだった。だが、完璧な無人駅だった。駅の目の前は広い更地になっていた。それを見たとき、旅館はなくなったのだとオイラは思った、いや思い込んだ。午後5時だった。
いやー、困ったなあ。駅の待合室に旅館やホテルの情報や広告など何もなかった。電車に乗れば、2駅で高松駅なのだ。慌てることはない。でもオイラは明らかに動揺していた。どうしたらいいのか決められず、駅前をうろうろ歩いていたのだ。そして倒れた自転車を起こしているサラリーマン風の若い男の人を見かけ、とっさに声をかけた。
「この近くに旅館かホテルありませんかねえ?」
男性は…

(つづく)

 (2018.0.0更新)




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