ユキノシタ【雪ノ下】

 山梨県南巨摩郡・5月28日撮影

小さな白い人形たち

かれこれ二十数年前のことだろうか。山梨県の山村のある農家を訪ねたことがあった。手書きの地図をたよりに、バスの終点からさらに30分ほど山道を歩いた。その日から初夏が始まったかのようなの暑い日だった。
訪ねた農家の井戸端の石垣に、ユキノシタの花が一面に咲いていた。日陰のじめじめしたような所だったが、時ならぬ雪でも降り積もったのかと見まごうほどに、白い小さな花が散りばめられていた。水をもらうのもそこそこに、カメラを出した。涼しげな風が流れ、小さな花がちりちり揺れていた。
近寄って目を凝らすと、上の小さな3枚の花びらには、赤紫色と黄色の斑点が鮮やかな模様となり、下の2枚の長い花びらは、どこか可愛い人形の白い脚のようにも見えた。きれいな花だと思った。傍らの人は、なにか珍しいものでも見るかのように私を見ていた。
根元から出た丸くて厚みのある葉には、粗い毛が密生し、白い斑や暗赤色を帯びた姿は、よく見ればちょっと気味悪い感じもした。でも、葉は民間薬になり、山菜としてテンプラにして食べたりもすると聞かされた。
野山の花への興味がみるみると深まっていったころの初夏の思い出である。

   (2000.5.29)

*

表紙・Topへ(最新/New)    バックナンバー 花手帖1(1月〜6月の花)  花手帖2(7月〜12月の花)

inserted by FC2 system