ベニバナイチヤクソウ【紅花一薬草】

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 長野県焼岳・6月26日撮影

雨の山もまた楽し

梅雨どきの山歩きは,家を出たときから帰ってくるまで,ずっと雨だったりすることがある。日頃の心がけの悪さを悔やんだりはするが,しとしと雨の降る山は,なぜかふしぎなくらいに気分が落ち着く。
深閑とした林の中で,この花の群落に出会ったりすれば,一瞬,はっと息をのむ。そして,ただそれだけで,ああ,来てよかったと思えてくる。

ベニバナイチヤクソウは,本州中部以北の高山や亜高山帯で,カラマツやシラカバなどの林の下でよく群落をつくる。草の高さは20cmくらい。特に珍しい植物ではないが,初夏に咲く薄紅色の花と敷きつめられた緑の葉には,目をみはるものがある。

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この写真を撮った焼岳では、遭難を目の当たりに見た。大声に驚いて前方を見上げると、ガレ場で人がポンコポンコ転がるように落ちていた。先行するグループに落石が襲ったのだ。
焼岳はいまだ活火山で岩場がいたってもろい。しばらく歩いて現場に着くと、二人が横たわっていた。中高年の女性は、顔が2倍くらいにふくれ上がっていた。流れた血さえ拭いてない。男性は体を丸くして顔を隠していた。おろおろした数名が、見るなと言わんばかりにまわりを立ち塞いでいた。
危ないから場所を移動しろと強く言った。同行者が応急処置できますからと申し出たが、もうトランシーバーで連絡したからと、かたくなに断られた。まだ小さかった息子の顔は明らかに青ざめ、引きつっていた。
われわれは頂上を踏み、同じルートを下山したが、そのときもまだ一行は場所こそ少し移動していたが、黙って救助を待っていた。われわれは無言でそこを通り過ぎた。ヘリコプターがブンブン飛び回ったのは、上高地に下り、指をくわえて帝国ホテルを眺めていた午後だった。いちばん下の息子はほっとしたのか、落石ならぬ、「 落人(らくじん)見たよね」と、ぽつりと言った。
それからしばらくの間、わが家族の間では、山で小さな落石など見かけると、決まって「落人」の話が出て、「落人」は流行り言葉になった。

(2000.6.30)

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