オカトラノオ【丘虎ノ尾】

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 山梨県南巨摩郡・6月撮影

虎の尾に休む“超音速機”

梅雨の晴れ間をぬって初夏の野山に出る。山地や丘陵地の草原では、オカトラノオの花をよく見かける。横向きに垂れ下がった白い花の穂を、虎の尾に見立てた名で、名前と花の形が印象的なので、その名は覚えやすく、すぐに馴染みの花になる。
花の穂の長さは10〜20cmくらいで、小さなひとつの花の直径は1cmほど。5弁の花だが、よく見ると元がくっついている合弁花で、サクラソウ科のなかまである。北海道から九州までに生育し、ごく普通に見られる。

そんなオカトラノオの花に、6月ころからよく見かけるセセリチョウが止まっている。ハナセセリともいうオオチャバネセセリだろう。初夏の草原では、ごくあたりまえにくり広げられている光景なのだろうが、とても新鮮に見えた。静寂が絵にかいたように時を止めていた。

このセセリチョウのなかまは、小さい翅で実に素早く飛び、小型の“超音速ジェット機”のようだ。でも、いったん花にでも止まると、意外にのんびり休んでいる。まあ、実際は我を忘れてひたすら吸蜜しているのだろうが。だから、静かに近づけば、指でつまむように捕まえられる。

はるか昔、子供のころ、こいつを捕まえては外側の後翅だけちぎりとり、また飛ばす遊びをよくしたものだ。小型超音速機は、くるくると方向を失ったように飛んだかと思うと、あえなく地に落ちる。そのへんてこりんな飛び方がおもしろくて、何度も何度も捕まえては遊んだものだった。
いま考えてみれば、ずいぶん残酷な遊びをしたものだが、そんなことはなんにも感じなかった。いまでも、あの狂ったように哀れで、滑稽で、必死な飛行とその軌跡を思い浮かべると、奇妙な魅惑がよみがえってくる。

(2000.6.29)

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