枕崎駅




鹿児島県 新しくなったJR枕崎駅 1月12日・撮影


鹿児島県 枕崎駅前 1月12日・撮影


鹿児島県 JR西大山駅 1月12日・撮影

青春18きっぷの旅

ついに念願かなって「青春18きっぷ」の旅に出た。とはいっても,昨年12月の話。そのきっぷの残りがあったので,今年に入ってから,またまた懲りずに旅を決行した。でも,これはもう旅なんかじゃない。修行である。難行苦行の荒行である。ただひたすら普通列車を乗り継いでいくという…。だって,たったの2,300510円で九州まで行こうというのだから,楽なわけがない。ところで,青春18きっぷとは,簡単にいえば,1日(人)2,300円で日本全国のJRの普通列車がどこまでも乗り放題の超格安きっぷである。これより安い移動手段は,目下のところ日本にはキセルか無賃乗車かヒッチハイクしかない。ああ,歩いて行くっていうのもあったな。ついにこのきっぷを使って一人旅に出たのである。
去年の夏など,発売日に,よし行くぞ! とばかりに意気込み,
11,500円の5枚つづりを買ったのに,結局1枚も使わずに期限切れの日に駅に払い戻しに行き,手数料を210円取られただけだったのだから,まったくの物好きというかバカなのである。今回は5枚しっかり使い切った。しかも,ごていねいにネットオークションで1回分のきっぷを出発前々日のぎりぎりに落札し,そんな予備までちゃんと持って行って使ってきた。なにはともあれ,“極貧オヤジ”はいろいろ大変なのであります。

さて,旅の詳細は,個人情報保護法に基づいて書けないというか,鈍行列車の旅の記録なんて,とてもじゃないけどめんどうくさくって書きたくない。とにかく,前回はお目当ての夜行「快速ムーンライトながら」23:43東京発に生まれてはじめて乗り,あとは普通列車や新快速を乗り継いで,ほぼ24時間後の深夜に,九州のとある駅にやっとたどり着いたのである。本当の最終目的地は,JR最南端の終着駅・枕崎だったのだが,1日ではとても無理。翌日やっと指宿に着き,そこでもう体力の限界だった。朦朧としていた。まあ見事にそこで挫折したのだ。だから修行だって言っただろ…。枕崎のカツオの刺身を目前にして,オレは諦めた。そして,帰りは,3回も新幹線を小間切れに乗り継ぐというアホもやらかしてしまった。だが,夜行の大垣23:19発「快速ムーンライトながら」の上りには間に合い,早朝の4時42分,まだ明けやらぬ東京駅に無事帰り着いたのである。これが前回のお話。

だから,話はここからなのである。中途半端な青春18きっぷの旅は,どうも寝覚めが悪い。手だけ握ってじゃあさよならね,って言われるのとおんなじだ。そんなのイヤダー。それどころか,どうしても枕崎のカツオの刺身となぎさ温泉が目の前をちらついてはなれないのだ。寝ても覚めても“枕崎”なのである。もう,リベンジしかないなと,再挑戦したわけ。でも,いくら安いからといって往復夜行というのは,もうオヤジには無理だよ。そうだ,夜行をやめて早朝出発の深夜到着に切りかえればいいんだ。そして,片道だけ青春18きっぷを使った旅にすればいいんだ。というぐあいに,だんだんトーンダウンしてきた。でも,これは正解だった。宿に泊まる回数は増えるが,うまいもんは食えるし,酒も落ち着いて飲める。温泉もはいれるし,睡眠も充分とれる。玉にきずなのは朝が早いことだけだ。

というわけで,行きは普通に“シニア”の旅をし,帰りだけ“青春”した。鹿児島中央駅からは夜のバス(1時間40分)で枕崎入りし,駅に近いホテルとは名ばかりの宿に宿泊。1泊2食・共同風呂で7500円,これがここの最安プラン。だが,刺身はうまいし,食いきれないほどの料理が出た。じゃあ残したのかというと,全部食った。

翌朝,JR枕崎駅に行ってビックラこいた。昨夜バスを降りたとき,なんとなく気づいてはいたが,暗かったし,実は見たくなかったのだ。でも,現実はなんともあっけらかんとそこに広がっていた。写真に見た昔ながらの日本最南端の駅舎がなくなっていた。更地になった隣に大きなスーパーマーケットができ,さらに向こうに,小洒落たといえば聞こえはよいが,真新しい白い小さな無人駅がぽつんとあるだけだった。ああ,間に合わなかった。最近はこんなことばかりだ。
気を取り直して,枕崎港となぎさ温泉(片道
徒歩40分)に歩いて行った。おだやかな海はきらきらと光り,ウミネコがのんびりと漂い,カモメが飛んでいた。競りの終わった魚だろうか,トラ箱に入れて軽自動車で運ぶ爺さんやオバさんがいたり,大型トレーラーからそれは膨大な数の冷凍カツオが雪崩落ちるように降ろされていたり,漁船に氷や燃料がのんびりと補給されていたりした。静かだが,ついさっきまでの慌ただしい活況と喧噪がまだそこかしこに残っているような昼の魚港だった。
なぎさ温泉に行く途中の小さなスーパーの前で,魚や野菜の大安売りをやっていた。
30cmもあるようなサバが1尾200円だった。ちょっと小ぶりのタイも300円だった。すごく買いたかった。でも…。今度は,通りすがりでも魚が買えるような旅をしよう。なぎさ温泉は海岸線のやや小高いところにあり,ゆるやかだが長い上り道に汗をかくほどだった。温泉は評判通りのよい泉質で,まだ昼前のせいか,空いていて久々にのんびりした。だが,浴室の中まで流行歌というか演歌が流れているのは,どうもアレだけはいただけなかった。湯上がりに,牛乳を1本飲んだ。これがうまいんだよね。ね。

1305分発,JR最南端の駅,枕崎駅から青春18きっぷ鈍行列車の旅はついに始まった。天気は薄曇り,時々日射しもさすおだやかな冬の日だった。ワンマン列車が動き出したので,駅前スーパーで買ってきたにぎり寿司を開き,地元枕崎の名物焼酎「白波」のワンカップで,旅の前途を祝す。やがて右手にはかつて登った開聞岳が見え,正真正銘のJR最南端の駅西大山駅にはもう菜の花が咲いていた。
14:19指宿着(乗り換え)14:32発→15:51鹿児島中央着。桜島がすぐそこに見えた。16:26鹿児島中央発→17:14川内着。川内−新八代間は第三セクターの肥薩おれんじ鉄道なので,しょうがない九州新幹線に別途お金を払って乗る。新八代からはまた普通電車に乗り換えて,あとはすべて完璧に東京まで,青春18きっぷを使った鈍行列車の旅を延々と続けた。博多,門司,下関,広島,岡山,神戸,大阪,京都,大垣,名古屋,静岡,横浜,東京と…,長かった。乗った列車の記録はもうわからない,というかもう思い出したくもない。ただただひたすら普通や新快速を乗り継いだ。夜行列車こそ使わず,途中駅前格安ビジネスホテルに2泊したが,枕崎→東京,約1,556km,2泊3日の青春18きっぷの旅だった。だが,やはり“修行”であることに変わりなかった。
別に鉄道マニアでもなんでもないのに,なんでこんな意味もないハードな旅を始めたのだろう。昼間は車窓に流れる景色をただただボケーとながめていた。持っていった文庫本は結局1ページも開かなかった。夜はホテルに近い場末の居酒屋やめし屋で一人で黙々と鬱々と酒を飲んでいた。なかなか酔えない酒が鉛のように腹にたまるばかりだった。本来の旅の目的は達せられた。だが,そこにはただ「千の風」が吹いているだけだった。

(2007.1.20更新)

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