ウツギ 【 空木、卯木 】

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長野県 入笠山 6月中旬・撮影

卯の花腐し

先日読んだ池波正太郎の『剣客商売・二十番斬り』の最終章は、奇しくも「卯の花腐し」と題されていた。そこには、「来る日も来る日も、雨であった。咲いた卯の花を腐らせるということで、この季節に降りつづく雨を、卯の花腐しという。」と、あった。小柄な隠居老人、実は剣客秋山小兵衛は、ついに本所・小梅村の皆川石見守・抱え屋敷に乗り込み、お世継ぎ騒動で悪事をたくらむ家老の浅野彦史郎とそこに巣食う二十人ほどの剣客浪人どもをバッサバッサと叩き斬った。しかし、その場から消え去った者がひとりいた。浪人どもの頭領格で、薄気味悪いほどの大男の浅井源十郎であった。女中ではあるが若くて気が利き、やけに仲のよいおはると戯れ言を言っているとき、小兵衛の肩にのせたおはるの手が急に震えだした。「降りけむる雨の幕の中から、滲み出たように、一個の人影が浮いて出た。」やはり現れたのである、剣客浪人・浅井源十郎が。「一騎打ちの所望をいたす。」と…。さて、結末は書かないことにしよう。
「卯の花腐し」(うのはなくたし)とは、俳句の季語でもある。街なかの卯の花は、気が早く、5月ころから咲き出しているが、やはり山に生える木だから、6月の長雨のころに見ると、五弁の白い花はいよいよ清々しい。
ところで、小学唱歌の、♪卯の花のにおう垣根に…♪の、「におう」とは匂いがするという意味ではなく、美しく映えるといったような意味合いである。古語なのである。だから、いくら鼻を近づけて匂いを嗅いでみても、ウツギの花は匂わない。せいぜい鼻の頭を蜂にでも刺されるのが関の山だろう。

(2004.6.25更新


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