カリンの実と影【 花梨 】 |
影 影の人は思わぬところで現れる 冬の植物園で,やわらかな光が射すと 影は背後からやってきて,わたしをすり抜け,わたしの前に立つ 影は黄色いカリンの実が欲しいという 腕をのばしてとろうとするが,なかなかつかめない 黒い手は宙をさまよい,いたずらに黄色い実を撫でるだけだ 向こうから突き抜けてきた者よ 影が色を欲してどうしようというのだ それは落ちた果実が枝を懐かしむようなものだ 影の人よ,もしや君は,時の影を探しているのではないだろうな それは,死者がぬくもりを求めるようなものだ いつまでたっても黄色い実はつかめない もどかしさが苛立ちに変わるころ,たわいもない遊びは終わる 冬の植物園で… カリン |
(2007.2.21更新) |