クチバシシオガマ 【 嘴塩竃 】

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長野県乗鞍岳 8月3日・撮影

上唇の先が嘴のように尖る

クチバシシオガマはヨツバシオガマの変種とされていて、全体的な姿形もよく似ているというか、ほとんど同じようなので、ヨツバシオガマと呼んでも差しつかえないのだろうが、今回はやけに厳密になって、区別しておくことにする。それには、ちょっとわけがある。
かつては、一夏に1,2回、遠くても北アルプスくらいまでの登山しかしていなかったが、ヨツバシオガマのきれいな株になかなか出会えなくて、少々イライラしながら、どうしてだろうと不思議に思っていた。
ヨツバシオガマは、特にめずらしい高山植物でもないし、夏の高山ではよく見かける。鮮やかな赤紫色の花の穂、きれいに輪生した4枚の葉、すらっと伸びた立ち姿は夏の山々に映える。そんな花の写真をぜひ撮りたいものだと思っていた。
夏山に行くたびに、気にかけ、けっこう真面目に探していたのだが、いつも小ぶりでどことなく貧弱で、花の色も薄いものにしか出会えなかった。
ところが、東北の山に出かけるようになって、いっぺんで開眼した。東北のヨツバシオガマは、花の赤紫色が濃く鮮やかで、花付きもよければ、背丈もだいぶ大きく、見栄えがすごくいい。まさに図鑑や写真集に載っているようなきれいな姿をしていた。一目見たとき、これは種類が違うんでは、
と感じた。
帰ってから、いやいや図鑑を調べたら、やっぱり…。ヨツバシオガマには、いろいろな変種があり、おまけに地域による変異も多いそうだ。ちなみに東北の飯豊山以北と北海道に分布しているのは、キタヨツバシオガマというそうだ。そして、北アルプス南部(写真を撮った乗鞍岳は北アルプスのいちばん南の山)から南アルプス、八ヶ岳などには、ヨツバシオガマより、クチバシシオガマのほうが多いという。
クチバシシオガマは背丈がやや小ぶりで、花冠は白っぽい淡紅紫色で筒部が白い。また、上唇の先の鳥の嘴のように尖っている部分がヨツバシオガマより長く、そこだけが濃い赤紫色をしているという。
なるほど、オイラがいつも見ていたのは、ヨツバシオガマの変種のクチバシシオガマだったというわけだ。それをヨツバシオガマだと思い込んで、鮮やかな色をした立派な個体がなかなか見つからないといって、じれていたわけだ。
実物を見て知っていても、その正しい名前を知らないと、正しい認識ができないというわけだ。そして、このようなとんでもない遠回りをすることになるんだな。名を知ることは、やはりおろそかにできない。

似ている種類は、ヨツバシオガマミヤマシオガマタカネシオガマ

(2004.8.19更新)

 

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